労働基準法は、1987年の改正で週40時間制が導入されて以来、大きな枠組みが変わっていません。いま、約40年ぶりの大改正として、労働時間と休日のルールの見直しが議論されています。
厚生労働省の労働基準関係法制研究会が2025年1月に報告書をまとめ、労働政策審議会で審議が続いています。当初見込まれていた2026年の通常国会への法案提出は見送られ、法案の提出は2027年以降、施行はさらにその後となる見通しです。内容も時期もまだ決まっていませんが、検討されている項目は就業規則の中心的な条文に関わるものばかりです。
本記事では、検討中の項目ごとに、就業規則のどこに影響し、今のうちに何を確かめておくとよいかを整理します。
検討されている主な項目
| 項目 | 検討の方向 | 影響する就業規則の条文 |
|---|---|---|
| 連続勤務の上限 | 14日以上の連続勤務の禁止 | 休日、シフト、休日出勤 |
| 勤務間インターバル | 原則11時間の確保の義務化(現在は努力義務) | 始業・終業、時間外労働 |
| 法定休日の特定 | 法定休日をあらかじめ特定する義務 | 休日、休日労働の割増賃金 |
| 有給休暇中の賃金 | 「通常の賃金」で支払う方法への統一 | 年次有給休暇、賃金 |
| 副業・兼業 | 労働時間の通算と割増賃金の扱いの見直し | 副業・兼業 |
| 44時間の特例 | 従業員10人未満の一部の業種の週44時間特例の廃止 | 労働時間 |
| 勤務時間外の連絡 | 「つながらない権利」のガイドラインの策定 | テレワーク、服務規律 |
1. 14日以上の連続勤務の禁止
現在の労働基準法は、休日を「毎週1日」または「4週間を通じて4日」(変形休日制)と定めています。変形休日制を使うと、理論上は長期間の連続勤務が可能です。見直しでは、14日以上の連続勤務を禁止し、実質的に「2週間に2日」の休日を確保する方向が議論されています。
今のうちに確かめること
- 就業規則で変形休日制(4週4休)を採用しているか
- シフト勤務の部署で、12日を超える連続勤務が起きていないか
- 休日出勤の命令と振替休日の運用
2. 勤務間インターバルの義務化
勤務間インターバルは、終業から次の始業までに一定の休息時間を確保する仕組みです。現在は労働時間等設定改善法で努力義務ですが、原則11時間の確保を義務にする方向が議論されています。
今のうちに確かめること
- 深夜までの残業のあと、翌朝の始業が早い勤務が発生していないか
- 始業時刻を繰り下げる仕組み(インターバルに食い込んだ時間を勤務したものとみなすか)を決められるか
- 夜勤や交替制の勤務表
3. 法定休日の特定
週に1日の休日(法定休日)に働いた場合は35%以上、それ以外の休日(所定休日)に働いた場合は時間外労働として25%以上の割増賃金になります。現在は法定休日を特定する義務がなく、就業規則で「日曜日」などと定めていない会社もあります。見直しでは、法定休日をあらかじめ特定する義務が議論されています。
今のうちに確かめること
- 就業規則に法定休日を定めているか(「休日のうち日曜日を法定休日とする」など)
- 給与計算で、法定休日の労働と所定休日の労働を区別しているか
4. 有給休暇中の賃金の算定方法
年次有給休暇を取った日の賃金は、現在「通常の賃金」「平均賃金」「標準報酬日額(労使協定が必要)」の3つから選べます。日給制や時給制の人が平均賃金で計算されると、休んだ日の賃金が通常より低くなることがあるため、「通常の賃金」に統一する方向が議論されています。
今のうちに確かめること
- 就業規則・賃金規程で、年休の日の賃金をどの方法で定めているか
- パート・アルバイトの年休の賃金の計算方法
5. 副業・兼業の労働時間の通算
現在は、本業と副業の労働時間を通算して、法定労働時間を超えた分に割増賃金を支払う決まりがあり、企業の負担が大きいことが課題でした。見直しでは、割増賃金の計算での通算をやめる方向が議論されています(健康確保のための労働時間の把握は続ける方向)。
今のうちに確かめること
- 副業・兼業規程で、副業先の労働時間の申告を求めているか
- 申告された労働時間をどう使っているか(健康確保・割増賃金)
6. 週44時間の特例の廃止
商業、映画・演劇、保健衛生、接客娯楽の業種で、従業員10人未満の事業場には、週44時間まで働かせられる特例があります。これを廃止する方向が議論されています。
今のうちに確かめること
- 特例を使って週44時間の所定労働時間にしているか
- 廃止された場合に、所定労働時間とシフトをどう組み直すか
7. 勤務時間外の連絡(つながらない権利)
勤務時間外の業務連絡について、法律の義務ではなくガイドラインを策定する方向が議論されています。社内ルールの作り方は「「つながらない権利」の社内ルールの作り方」で解説しています。
就業規則の見直しの進め方
改正の内容と施行日が決まってから動くと、就業規則の改定、労働者の過半数代表の意見聴取、労働基準監督署への届出、周知までを短い期間でこなすことになります。今のうちにできるのは次の3つです。
- 現状の棚卸し:休日、連続勤務、インターバル、年休の賃金、副業の申告について、就業規則の条文と実際の運用を確認する
- 影響の大きい部署の把握:シフト制、夜勤、交替制、店舗など、変更の影響が大きい部署を洗い出す
- 改定の担当と手順を決めておく:誰が改定案を作り、誰がレビューし、どう周知するか
ありがちな失敗
1. 法案が出てから考える
大改正では、休日と労働時間という就業規則の中心的な条文が変わる可能性があります。条文を変えるだけでなく、シフトや給与計算の仕組みも見直すことになるため、準備に時間がかかります。
2. 就業規則と運用がずれている
「法定休日は日曜日」と定めていても、実際には日曜日に出勤させて平日に休ませている、というように、規程と運用がずれていると、改正に合わせて直すべき箇所を見落とします。
3. 改定の経緯を残していない
度重なる改正に合わせて改定していくと、「いつ、なぜこの条文を変えたか」が分からなくなります。改定の理由を記録しておくと、次の改正のときに判断が速くなります。
規程ログでの整備
規程ログの AI 法令レビューは、e-Gov から労働基準法を取り込み、改正が公布されたら自社の就業規則と照らして、影響する条文を指摘します。改定の作業からは新旧対照表が作られ、「いつ・誰が・なぜ変えたか」が版ごとに残ります。就業規則のテンプレートも用意しているので、今の規程と見比べて棚卸しに使えます。
まとめ
労働基準法の大改正は、法案の提出が2027年以降、施行はその後になる見通しで、内容もまだ決まっていません。ただ、検討されているのは休日、連続勤務、インターバル、年休の賃金、副業といった就業規則の中心的な項目です。今のうちに規程と運用のずれを棚卸ししておけば、改正の内容が決まったときに、落ち着いて対応できます。
※ 本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な情報整理です。改正の内容と施行時期は、今後の審議と法案で変わる可能性があります。規程の改定は、最新の情報の確認と、社労士・弁護士への相談を推奨します。
