2025年6月11日に公布された改正公益通報者保護法が、2026年12月1日に施行されます。2022年の改正で従業員301人以上の事業者に体制整備が義務付けられましたが、今回の改正は、その実効性を高めることに重点が置かれています。通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰の新設など、内部通報規程の見直しが必要な内容が含まれます。
内部通報規程の基本的な作り方は「内部通報規程の作り方」で解説しています。本記事では、今回の改正で何が変わり、規程のどこを直すかに絞って整理します。
改正の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公布日 | 2025年(令和7年)6月11日 |
| 施行日 | 2026年(令和8年)12月1日 |
| 主な柱 | ①体制整備の実効性の向上、②通報者の範囲の拡大、③通報を妨げる行為への対処、④不利益な取扱いの抑止と救済の強化 |
変更点1:フリーランスが通報者に加わる
これまで公益通報者は、労働者・退職者・役員などに限られていました。改正後は、業務委託で働くフリーランスも通報者に加わります。通報の日から1年以内に業務委託の関係にあった人も含まれます。
規程で直すこと
- 通報できる者の範囲に、業務委託先の個人(フリーランス)を加える
- 業務委託契約の終了後1年以内の人を含める
- フリーランスへの不利益な取扱い(契約の解除、発注の減少など)も禁止の対象に加える
変更点2:通報を妨げること、通報者を探すことの禁止
事業者が正当な理由なく、次のことをすることが禁止されます。
- 通報を妨げること:「通報しない」と約束させる、通報しないことを契約の条件にするなど。こうした約束は無効になります
- 通報者を探すこと:誰が通報したのかを特定しようとすること
規程で直すこと
- 通報の妨害と、通報者の探索を禁止する条文を置く
- 就業規則・誓約書・秘密保持契約に「通報しない」と読める条項がないかを点検する
- 調査を担当する者が、通報者を特定する行為をしないことを手順に書く
変更点3:解雇・懲戒への刑事罰の新設
公益通報をしたことを理由とする解雇・懲戒に、刑事罰が新設されます。
| 対象 | 刑事罰 |
|---|---|
| 解雇・懲戒をした個人 | 6月以下の拘禁刑 または 30万円以下の罰金 |
| 法人 | 3,000万円以下の罰金 |
規程で直すこと
- 不利益な取扱いの禁止の条文に、刑事罰の対象となる行為(解雇・懲戒)を明記する
- 懲戒規程と照らし合わせ、通報者に対する懲戒の手続きに、通報との関係を確認する段階を設ける
変更点4:不利益な取扱いの推定
公益通報をした日から1年以内(または事業者が通報を知った日から1年以内)に行われた解雇・懲戒は、通報を理由とするものと推定されます。事業者の側で、通報とは関係のない理由であることを示す必要があります。
規程で直すこと
- 通報者に対する解雇・懲戒の判断では、理由と経緯を記録として残すことを手順に加える
- 人事部門と通報窓口の連携(通報者であることを知り得る範囲の管理)を決めておく
変更点5:体制整備の義務の強化
従業員301人以上の事業者に課されている体制整備の義務(公益通報対応業務従事者の指定など)について、実効性を高める措置が加わります。
- 内部公益通報に対応する体制を、労働者等に周知する義務が法律に明記される
- 消費者庁による立入検査と、勧告に従わない場合の命令が新設され、検査の拒否や命令への違反には罰則が設けられる
規程で直すこと
- 窓口・受付方法・対応の流れを、全従業員(とフリーランス)に周知する方法を定める
- 公益通報対応業務従事者の指定と、その守秘義務の条文を点検する
- 周知したことを示せる記録(掲示、配布、閲覧の記録)を残す
従業員300人以下の事業者は、体制整備は引き続き努力義務です。ただし、刑事罰と不利益取扱いの推定は事業者の規模に関係なく適用されます。
施行までのスケジュール
| 時期 | やること |
|---|---|
| 〜10月 | 現行の内部通報規程・就業規則・誓約書の点検 |
| 10月〜11月前半 | 規程の改定案の作成、弁護士・社労士のレビュー |
| 11月後半 | 改定した規程の公開と、全従業員・フリーランスへの周知 |
| 12月1日 | 施行。通報対応の記録の運用を開始 |
ありがちな失敗
1. 誓約書の「通報しない」条項を見落とす
入社時や退職時の誓約書、秘密保持契約に、社外への情報提供を一律に禁じる条項があると、通報の妨げと受け取られるおそれがあります。規程だけでなく、関連する書式も点検します。
2. 周知が一度きり
体制の周知が法律に明記されたことで、「規程を作って掲示した」だけでは足りなくなる可能性があります。入社時と定期的な周知、フリーランスへの周知を仕組みにします。
3. 調査の過程で通報者を探してしまう
調査担当者が善意で「誰が言ったのか」を確認しようとすることは、今回の改正で禁止される通報者の探索にあたり得ます。調査の手順書に、してはいけないことを明記します。
規程ログでの整備
規程ログには、内部通報規程のテンプレートがあります。改定した規程は、改定前の版と並べた新旧対照表で確認でき、取締役会や監査に提出できます。公開すると、従業員ごとの閲覧の記録が残るため、今回の改正で明記された「体制の周知」を示す記録として使えます。
まとめ
2026年12月1日の改正で、公益通報者保護法は罰則を伴う法律になります。フリーランスの追加、通報の妨害と通報者の探索の禁止、解雇・懲戒への刑事罰、不利益取扱いの推定を踏まえ、施行までに内部通報規程と関連書式を見直しましょう。
※ 本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な情報整理です。改正法・政省令・指針の最新の内容を確認し、具体的な規程の改定は弁護士・社労士による確認を推奨します。
