2022年6月に施行された公益通報者保護法改正により、従業員301人以上の事業者は内部通報対応体制の整備が義務化されました。300人以下も努力義務です。
さらに 2025年6月公布・2026年12月1日施行予定のさらなる改正で、フリーランスの保護対象化や解雇・懲戒した個人への刑事罰など、企業の責任範囲が大きく広がります。
本記事では、現行制度に対応した内部通報規程の必須項目と、2026年12月施行に向けた追加改訂のポイントを整理します。
公益通報者保護法 2022年改正の概要
主な改正点
- 体制整備義務:従業員301人以上は義務、300人以下は努力義務
- 通報者の守秘義務:従事者に刑事罰付きの守秘義務(30万円以下の罰金)
- 通報者保護の拡大:退職後1年以内の元労働者・役員も対象
- 保護対象通報の拡大:刑事罰のある法令違反 + 行政罰のある法令違反
体制整備義務の具体的内容
事業者は次の措置を講じる義務:
- 通報窓口の設置
- 通報者の探索・特定の禁止
- 通報・相談者への不利益取扱い禁止
- 内部規程の整備
- 教育・周知
これらの実施を担う「公益通報対応業務従事者」を指定する義務があります。
2026年12月施行予定の改正(要対応)
2025年6月11日公布、2026年12月1日施行予定の改正で、企業の責任範囲が大きく広がります。施行までに規程・運用の見直しが必須です。
1. 保護対象の拡大(フリーランスを追加)
改正法第2条第1項第3号により、**業務委託を受けて事業を行う個人(フリーランス)**が新たに保護対象に追加されます。これにより、
- 内部通報規程の対象範囲にフリーランスを含める必要
- 通報窓口がフリーランスからの通報も受け付ける旨を明記
- フリーランスへの不利益取扱いも禁止対象
2. 刑事罰の新設
公益通報を理由とした解雇・懲戒について、個人にも刑事罰が新設されます:
| 対象 | 罰則 |
|---|---|
| 解雇・懲戒をした個人 | 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 法人(両罰規定) | 3,000万円以下の罰金 |
3. 行政措置の強化(命令権新設)
従事者指定義務違反等に対して、現行の指導・勧告に加え**「命令権」が新設されます。命令違反は30万円以下の罰金**。
4. 体制整備義務の厳格化
従業員数301人以上の事業者の体制整備義務がさらに厳格化されます。具体的内容は施行前のガイドライン公表で明らかになる見込みです。
規程・運用の改訂ポイント
施行前(2026年12月までに)に次を整備:
- 内部通報規程の対象範囲にフリーランス(業務委託先個人)を明示
- 解雇・懲戒の判断プロセスに通報者かどうかの確認を組み込む
- 公益通報対応業務従事者の指定状況の再点検
- 役員・管理職への教育研修(刑事罰リスクの周知)
- 通報窓口(外部窓口含む)の体制再評価
規程に盛り込むべき必須項目
1. 目的・定義
- コンプライアンス確保
- 自浄作用の促進
- 従業員等の保護
- 「公益通報」「内部通報」の定義
2. 適用範囲
- 通報できる人の範囲
- 従業員(正社員・契約社員・パート・派遣・業務委託)
- 役員
- 退職後1年以内の元従業員・元役員
- フリーランス(業務委託を受けて事業を行う個人) ※2026年12月施行の改正で正式に保護対象化
- 取引先従業員(任意)
3. 通報対象事実
- 法令違反(刑事罰・行政罰のあるもの)
- 社内規程違反
- 不正経理・不正取引
- ハラスメント
- その他コンプライアンス上の問題
4. 通報窓口
内部窓口
- コンプライアンス部門
- 監査役・社外取締役
- 法務部
外部窓口
- 顧問弁護士事務所
- 第三者機関(外部通報サービス)
両方の設置が望ましい運用です。
5. 通報方法
- 電話
- メール
- ウェブフォーム
- 書面(封書)
- 対面
複数チャネルを用意し、匿名通報も可能にします。
6. 通報受付・調査フロー
- 受付者の指名(公益通報対応業務従事者)
- 受付から調査開始までの期間(2週間以内など)
- 調査担当者の指名(被通報者と利害関係のない者)
- 調査期間の目安
- 通報者への進捗報告
7. 通報者の保護
- 不利益取扱いの禁止:解雇・降格・減給・配置転換・嫌がらせ等
- 特定情報の守秘:通報者の氏名・所属を最小限の関係者のみ共有
- 通報者と疑われる者への配慮
8. 被通報者の権利
- 弁明の機会
- プライバシー保護
- 通報内容が事実無根の場合の名誉回復
9. 是正措置
- 違法行為の中止
- 再発防止策
- 関係者の処分(懲戒)
- 必要に応じた当局への自主申告
10. 公益通報対応業務従事者
- 指名(書面で指定)
- 守秘義務(違反は刑事罰)
- 教育研修
11. 教育・周知
- 全従業員への年1回研修
- 新入社員研修への組み込み
- 通報窓口の連絡先を社内ポータル・名刺に常時表示
12. 記録
- 通報受付・調査・是正措置の記録保管
- 保管期間(5〜10年)
- 個人情報を適切にマスキング
内部窓口 vs 外部窓口の使い分け
内部窓口のメリット
- 社内事情を理解した対応
- 迅速な調査着手
- コスト低
内部窓口のデメリット
- 通報者の心理的ハードル(社内の知人が受付)
- 経営層がらみの不正の場合に機能しにくい
外部窓口のメリット
- 通報者の匿名性確保
- 経営層がらみの案件でも機能
- 専門性(弁護士・労務専門家)
外部窓口のデメリット
- コスト
- 社内事情の理解が浅い場合あり
両方併設が理想ですが、コスト面で難しい場合は外部窓口を優先するのが通報者保護の観点で安全です。
通報者の特定回避
通報内容から通報者が特定されてしまう事例があります。対策:
- 通報内容を再構成して伝える(誰が言ったかを匿名化)
- 調査対象を広げる(「特定部署からの情報」でなく一般調査として扱う)
- 通報者の同意なく調査開始しない選択肢
不利益取扱いの判断
通報後の人事措置が不利益取扱いに該当しないかは、
- 措置のタイミング(通報直後でないか)
- 業務上の合理性
- 他の従業員との比較
で判断されます。通報者の人事評価・配置転換は、客観的根拠と記録を残して行うことが必要です。
ありがちな失敗
1. 窓口を作っただけで利用されない
「通報窓口があります」と説明しただけでは利用されません。研修内での周知・利用事例の共有・利用しやすい雰囲気作りが必要です。
2. 守秘義務違反
通報者特定情報を漏らした場合、改正法では刑事罰(30万円以下の罰金)が課されます。受付者の守秘義務徹底は必須です。
3. 経営層がらみの通報の機能不全
社長・役員がらみの通報は、内部窓口だけだと潰されるリスクがあります。外部窓口・監査役・社外取締役へのルートを必ず確保します。
4. 通報後の不利益取扱い
通報を理由とした解雇・配置転換は無効になり、損害賠償の対象になります。記録のない処分は要注意。
規程ログでの整備
規程ログには内部通報規程テンプレート(改正公益通報者保護法対応)が組み込まれています。社内規程・ハラスメント防止規程・コンプライアンス規程との連動も簡単に確認できます。
まとめ
内部通報規程は、従業員300人超は法的義務、それ以下もガバナンス上の必須整備です。窓口設置・通報者保護・是正措置の3点セットで、機能する制度を作ることが重要です。
※ 本記事は一般的な情報整理を目的としています。具体的な規程作成・運用は弁護士・社労士による最終確認を推奨します。
