2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法等により、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が事業主の措置義務となります。施行は2026年10月1日。あわせて、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も義務化されます。
パワハラ防止措置(2022年4月に中小企業も義務化済)と異なり、カスハラは「加害者が社外の顧客・取引先」である点が特徴で、従来の社内ハラスメント規程だけではカバーできません。本記事では、施行までに整備すべきカスタマーハラスメント対策規程の作り方を整理します。
改正の概要(2026年10月1日施行)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号) |
| 公布日 | 2025年(令和7年)6月11日 |
| 施行日 | 2026年(令和8年)10月1日 |
| 指針 | カスタマーハラスメント防止指針(2026年2月26日公布) |
| 同時義務化 | 求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策 |
事業主には、カスハラから労働者を守るための雇用管理上必要な措置を講じる義務が課されます。措置の具体的内容は厚労省の指針で示されており、規程整備・相談体制・対応マニュアルがその中核です。
カスタマーハラスメントとは
指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを、おおむね次の3要素を満たすものとして整理しています(最終的な定義・判断は指針の本文で確認してください)。
- 顧客・取引先等(社外の者)からの言動であること
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
- その言動により労働者の就業環境が害されること
ポイントは、正当なクレーム・要望と、カスハラを区別することです。商品・サービスの不備に対する正当な指摘はカスハラではありません。線引きの目安は後述します。
カスハラに該当しやすい言動の例
- 身体的攻撃(殴る・物を投げる)
- 精神的攻撃(人格否定・侮辱・脅迫・大声での叱責)
- 土下座の要求
- 長時間の拘束・繰り返しのクレーム電話
- 正当な理由のない過剰な要求(規定外の対応・金銭の要求)
- SNSやネットでの誹謗中傷
- 従業員個人へのつきまとい・性的言動
正当なクレームとカスハラの線引き
| 観点 | 正当なクレーム | カスタマーハラスメント |
|---|---|---|
| 要求の内容 | 商品・サービスの不備の是正 | 社会通念を超えた要求(土下座・金銭・規定外対応) |
| 言動の態様 | 妥当な範囲の指摘 | 暴言・脅迫・侮辱・長時間拘束 |
| 目的 | 問題の解決 | 攻撃・私的な感情の発散 |
要求内容に妥当性があっても、手段・態様が社会通念を超えればカスハラになり得ます。逆に、態様が穏当でも、要求内容自体が不当(規定外対応の強要など)であればカスハラに該当する場合があります。
事業主が講ずべき措置
指針が求める措置は、パワハラ防止措置と類似の枠組みです。
- 事業主の方針の明確化・周知:カスハラは許さない旨、対応方針の表明
- 相談体制の整備:相談窓口の設置と担当者の対応力向上
- 発生時の適切かつ迅速な対応:事実確認・被害者保護・再発防止
- 被害を受けた労働者への配慮:メンタルケア・一人で対応させない体制
- マニュアル整備・研修:対応手順の標準化と教育
これらを実効的に運用するための土台が、カスタマーハラスメント対策規程です。
規程に盛り込むべき必須項目
1. 目的・定義
- 労働者を守ること、安全配慮義務(労契法第5条)の履行を目的に明記
- カスハラの定義(指針の3要素)と該当する言動の類型
2. 適用範囲
- 対象となる従業員(正社員・契約社員・パート・派遣・業務委託先を含むか)
- 対象となる加害者(顧客・取引先・利用者・その家族等)
3. 会社の基本方針
- カスハラに対して毅然と対応する旨
- 従業員を一人で対応させない(組織で対応する)旨
- 悪質な場合は取引停止・出入り禁止・警察/弁護士への相談を辞さない旨
4. 対応体制・相談窓口
- 相談窓口(社内・外部)の設置
- 報告ルート(現場 → 上長 → 対応責任部署)
- エスカレーション基準(どの段階で管理職・本部が出るか)
5. 対応フロー
- 一次対応の手順(傾聴・事実確認・要求内容の確認)
- 対応を打ち切る基準(暴言・長時間拘束・脅迫があった場合など)
- 記録の取り方(録音・記録票・日時・対応者)
- 警察・弁護士へのエスカレーション基準
6. 従業員の保護・配慮
- 被害従業員のメンタルケア(産業医・カウンセリング)
- 配置転換・担当変更などの配慮
- 不利益取扱いの禁止(カスハラ被害を申告したことを理由とした評価上の不利益の禁止)
7. 教育・研修
- 全従業員への対応研修(ロールプレイ含む)
- 管理職向けのエスカレーション・記録研修
8. 記録・再発防止
- カスハラ対応記録の保管
- 事例の共有とマニュアルの改訂
既存ハラスメント規程との関係
社内ハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラ)は加害者が社内、カスハラは加害者が社外という違いがあります。整理の仕方は2通りです。
- 独立した「カスタマーハラスメント対策規程」を新設(対応フローが社内ハラスメントと大きく異なるため、推奨)
- 既存の「ハラスメント防止規程」に章を追加
いずれの場合も、相談窓口・記録ルール・教育を社内ハラスメント対応と連携させると運用しやすくなります。
求職者等へのセクハラ対策も同時に義務化
2026年10月1日からは、採用面接など求職段階での求職者に対するセクハラも防止措置の対象です。面接官の言動ルール・相談先の明示などを、採用関連規程やハラスメント防止規程に反映しておきましょう。
ありがちな失敗
1. 「クレーム対応マニュアル」と混同する
カスハラ対策は、顧客満足のためのクレーム対応とは目的が異なり、従業員保護が主眼です。両者を分けて整理しないと、現場が「我慢して対応する」運用に戻ってしまいます。
2. 線引き基準がなく現場任せ
「どこからがカスハラか」の基準と、対応を打ち切ってよい基準を規程・マニュアルで明示しないと、現場が判断できません。
3. 周知・教育が不足
規程を作っても、現場が「会社が守ってくれる」と認識していなければ機能しません。研修と方針の周知が不可欠です。
規程ログでの整備
規程ログには、ハラスメント防止規程のテンプレートが組み込まれており、カスタマーハラスメント対策規程の整備にも活用できます。改訂時には全従業員への周知と既読証跡の取得が自動化できるため、2026年10月の施行に向けた周知義務のエビデンスを残せます。
まとめ
カスタマーハラスメント対策は、2026年10月1日から事業主の法的義務になります。ポイントは、①方針の明確化、②正当なクレームとの線引き基準、③従業員を一人にしない対応フロー、④被害者保護の4点です。施行前に規程・相談体制・研修を整備しておきましょう。
※ 本記事は一般的な情報整理を目的としています。カスハラ防止指針の詳細や具体的な規程作成・運用は、最新の指針本文の確認と、弁護士・社労士による最終確認を推奨します。
