旅費規程(出張旅費規程)は、出張時の費用負担と精算ルールを定める実務直結の規程です。基準が曖昧だと、精算のたびに判断がブレ、経費の使いすぎや不公平感、税務リスクにつながります。一方で、適切に整備すれば日当の非課税メリットを活かせるなど、会社・従業員双方にメリットがあります。
本記事では、旅費規程の必須項目と条文例、日当の金額の決め方、日当の税務上の扱い・電子帳簿保存法/インボイス制度への対応を整理します。
出張旅費規程の位置づけ
- 旅費の支給は法律上の義務ではないが、規程で基準を定めるのが一般的
- 規程があることで日当が所得税の非課税扱いになり得る(社会通念上相当な範囲)
- 全社で統一した基準を持つことで、精算の公平性と効率が高まる
規程に盛り込むべき項目
1. 目的・適用範囲
- 適用される従業員の範囲
- 出張の定義(後述)
2. 出張の定義・区分
| 区分 | 目安 |
|---|---|
| 日帰り出張 | 勤務地から一定距離以上(例:片道○km以上)の地への日帰り |
| 宿泊出張 | 宿泊を伴う出張 |
| 海外出張 | 国外への出張 |
「近距離の外出」と「出張」の線引き(距離・所要時間)を明確にしておくと、日当支給の判断が安定します。
3. 交通費
- 実費支給が原則
- 利用できる交通手段と等級(新幹線の指定席・グリーン車の可否を役職で区分するか)
- 自家用車利用時のガソリン代・距離単価
4. 日当
- 出張に伴う諸雑費に対する定額支給
- 役職別・国内/海外別の金額テーブル
- 日帰り/宿泊での差
5. 宿泊費
- 実費上限方式か定額方式か
- 役職別・地域別(都市部は上限を上げる等)の上限額
6. 仮払・精算
- 仮払(出張前の概算払い)の手続き
- 精算期限(帰着後○日以内)
- 領収書の要否(日当・交通費は不要、宿泊費・その他は要 等)
7. 海外出張
- 支度金・旅券/査証費用・予防接種費用の扱い
- 為替レートの適用基準
- 渡航先のリスクレベルに応じた手当
役職別基準の作り方
日当・宿泊費・交通手段の等級は、役職別に設定するのが一般的です。
| 区分 | 日当(例) | 宿泊費上限(例) | 交通手段(例) |
|---|---|---|---|
| 役員 | 高 | 高 | グリーン車可 |
| 管理職 | 中 | 中 | 指定席 |
| 一般 | 標準 | 標準 | 指定席 |
金額は業界・地域水準を参考に、社会通念上相当な範囲に収めることが税務上重要です(過大だと給与扱いの指摘リスク)。
日当の金額の決め方(相場の考え方)
「出張の日当の相場はいくらか」はよく聞かれますが、日当の額を定めた法令はなく、一律の基準額もありません。本記事では特定の金額を相場として示すことはせず、自社で金額を決めるときの手順を整理します。
- 日当で何をまかなうかを決める — 出張中の昼食代・現地での細かな交通費・通信費など、実費精算しない諸雑費を日当に含めるのかを先に決めます。含める範囲が広いほど金額も上がります
- 区分を決める — 日帰り/宿泊、国内/海外、地域(都市部とそれ以外など)、役職の区分を、必要な分だけ設けます。区分を増やすほど精算の判断が複雑になります
- 自社の実績から見積もる — 過去の出張で実際にかかった諸雑費を集計し、区分ごとの水準を把握します。同業他社や取引先の水準を聞ける場合は参考にします
- 税務上の相当性を確認する — 非課税とされる旅費かどうかは、その旅行に通常必要な範囲かに加え、役員・使用人の全体を通じて適正なバランスが保たれた基準で計算されているか、同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額に照らして相当かを勘案して判断されます(所得税基本通達9-3)。迷う場合は税理士に確認します
- 定期的に見直す — 宿泊費・交通費の水準は変わるため、改定の時期(例:年1回)を決めておきます
金額を決めたら、役職・区分ごとの表として規程(または別表)に載せ、全社で同じ基準を使います。
条文例(ひな形)
規程の中核となる条文のサンプルです。規程ログで公開している旅費規程のテンプレート(ひな形)の条文をもとにしています。金額・距離・期限は自社の基準に置き換えてください。
(目的)
第◯条 この規程は、就業規則に基づき、役員及び社員の出張その他の旅費に関する事項を定める。
(旅費の経路)
第◯条 旅費は、勤務地を基点とし、一般的かつ合理的な最短順路によって計算する。ただし、業務の都合又は天災その他やむを得ない理由により当該順路によりがたいと会社が認めた場合は、現に経過した路線によって計算する。
(出張旅費)
第◯条 出張旅費とは、社員が出張を命ぜられた場合の交通費、宿泊料及び日当をいう。
(交通費)
第◯条 鉄道、船、航空機その他の交通機関を利用する場合は、その実費を支給する。ただし、事前に会社の承認を得なければならない。
(日当及び宿泊費)
第◯条 日当は、出張日数に応じて1日につき1日分の割合で支給する。 2 宿泊費は、1泊につき職位に応じた額を上限として実費を支給する。 3 日当及び宿泊費の額は、別表のとおりとする。
(日帰り出張)
第◯条 片道◯キロメートル以上かつ所要時間◯時間以上の日帰りの出張については、所定の交通費及び日当を支給する。 2 前項に該当しない日帰りの出張については、交通費の実費のみを支給し、日当は支給しない。
(仮払い及び精算)
第◯条 旅費は、所定の申請により概算額の仮払いを受けることができる。 2 仮払いを受けた者は、帰着後◯日以内に精算しなければならない。
(証拠書類)
第◯条 旅費の請求にあたっては、必要に応じて領収書その他の証拠書類を添付しなければならない。
テンプレートには、このほか長期出張・研修旅費・赴任旅費(支度金・家族旅費)・出張中の事故の扱いなどの条文も含まれています。海外出張の手順は海外出張マニュアルのテンプレートも参考にしてください。
日当の税務上の扱い
- 出張旅費規程に基づき、通常必要と認められる範囲で支給される日当・旅費は、所得税が非課税
- 消費税は、国内出張の旅費・日当は原則課税仕入れとして扱える(インボイス不要の特例あり)
- 過大な日当・実態に合わない支給は給与とみなされ、源泉徴収・社会保険の対象になり得る
「規程に基づく・相当な範囲・実態を伴う」の3点が、非課税扱いを支える前提です。
電子帳簿保存法・インボイス制度への対応
- 電子帳簿保存法:メール・Web で受領した領収書等(電子取引データ)は、原則電子データのまま保存が必要。検索要件・真実性の確保(タイムスタンプ等)に対応する
- インボイス制度:原則は適格請求書(インボイス)の保存が仕入税額控除の要件。ただし出張旅費等特例により、従業員に支給する通常必要な範囲の出張旅費・宿泊費・日当は、一定の帳簿記載でインボイス保存が不要
経費精算のフロー・保存方法を規程または運用ルールに反映しておきます。
ありがちな失敗
1. 出張の定義が曖昧で日当の判断がブレる
距離・所要時間の基準がないと、日当を出すか毎回もめます。定義を明記します。
2. 日当が過大で給与認定リスク
相場から大きく外れた日当は、税務調査で給与とみなされるリスクがあります。相当な範囲に収めます。
3. 電子領収書を紙で保存して終わり
電子取引データは電子のまま保存が原則です。運用ルールを更新しておきます。
規程ログでの整備
規程ログには、旅費規程をはじめとする社内規程のテンプレートが揃っており、改訂履歴と全従業員への周知・既読証跡を残せます。経費精算ルールの改訂(電帳法・インボイス対応など)を周知する際にも活用できます。
まとめ
旅費規程(出張旅費規程)は、出張の定義・交通費・日当・宿泊費・精算手続きを役職別基準とあわせて整備します。日当の額に法定の基準はないため、日当でまかなう範囲と自社の実績から決め、相当な範囲に収めます。日当の非課税メリットを活かすには「規程に基づく・相当な範囲・実態を伴う」ことが前提です。電帳法・インボイス制度に対応した精算・保存ルールも忘れずに反映しましょう。
※ 本記事は一般的な情報整理を目的としています。日当の金額水準や税務上の扱いは、税理士・社労士による確認を推奨します。
