2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス保護新法)は、個人フリーランスへの発注がある全企業が影響を受ける法律です。本記事では、規程・契約書の見直しポイントを整理します。
法律の概要
正式名は長いので「フリーランス保護新法」と略されます。下請法・労基法のフリーランス版に近い性質を持ちます。重要な定義:
- 特定受託事業者(フリーランス):個人で事業を行う者で、特定の事業者と雇用関係になく、他事業者から業務委託を受ける者
- 業務委託事業者:特定受託事業者に業務を委託する事業者
- 特定業務委託事業者:業務委託事業者のうち、従業員を使用する事業者(週20時間以上・31日以上の雇用見込みのある労働者を雇用)
つまり:
- 従業員を使用する事業者が個人フリーランスに発注 → 特定業務委託事業者として、より重い義務(追加義務 + 6か月以上の取引時の禁止行為)が課される
- 従業員を使用しない個人事業主が個人フリーランスに発注 → 業務委託事業者ではあるが「特定」業務委託事業者ではない(基本義務のみ)
従業員を雇用している企業は、ほぼすべて特定業務委託事業者に該当します。
主な義務
1. 取引条件の明示(書面または電磁的方法)
業務委託の条件を書面または電磁的方法で明示する義務:
- 給付の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 支払方法
- その他公正取引委員会規則で定める事項
2. 報酬支払期日のルール
- 成果物受領日から60日以内で、できる限り短い日に設定する義務
- 60日を超える支払期日は無効(60日として扱われる)
3. 禁止行為(一定要件下)
特に「業務委託期間が一定以上」など要件を満たす取引で:
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 物の購入強制・役務の利用強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当なやり直し
4. 就業環境の整備(特定業務委託事業者の追加義務)
特定業務委託事業者に対しては、業務委託先のフリーランスに対して:
- ハラスメント防止措置のための体制整備
- 育児・介護等との両立への配慮
が義務付けられます。
5. 6か月以上の業務委託時の追加義務
特定業務委託事業者が6か月以上の業務委託を行う場合、以下の追加義務:
- 受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき、購入・利用強制等の禁止
- 妊娠・出産・育児・介護への配慮義務
- 契約解除時の事前予告義務(30日前)
- 募集情報の正確な表示義務(氏名・住所・連絡先・業務内容・就業場所・報酬)
6. 罰則
- 違反時:勧告 → 命令 → 公表 → 罰金
規程・契約書の見直しポイント
1. 業務委託契約書のひな形改訂
現行のひな形に次が含まれているか確認:
- 給付内容の明記
- 報酬額・支払期日(60日以内)・支払方法
- 知的財産権の帰属
- 機密保持
- 契約解除の事由
- 損害賠償の上限
- 電磁的方法での明示を選択する場合の本人同意取得
書面交付の代わりにメール・PDF送付・契約管理システム等で代替する場合、フリーランス側が確認できる形である必要があります。
2. 社内の発注フロー見直し
- 発注時に必ず書面(または電磁的方法)で条件明示するフロー
- 支払期日の設定ルール(60日ルール準拠)
- 検収・受領のタイミング記録
3. ハラスメント防止規程の対象拡大
既存のハラスメント防止規程の適用範囲に業務委託先のフリーランスを含めます。
- 相談窓口がフリーランスからの相談も受け付ける旨を明記
- 不利益取扱いの禁止対象にフリーランスを含める
- 教育研修で「フリーランスへの言動」を取り扱う
4. 育児・介護への配慮
業務委託期間が一定以上のフリーランスに対して、
- 育児・介護のための業務量調整
- 業務時間の柔軟化
- 一時的な休業時の契約継続配慮
などの対応指針を社内規程・運用ルールに整備します。
5. 内部通報規程
通報窓口の対象にフリーランスを含めるか検討。新法での義務ではありませんが、リスク管理上は対象に含めるのが安全です。
実務上の注意点
1. 「個人事業主」と「法人」の区別
特定受託事業者(保護される側)は「個人で事業を行う者で、特定事業者と雇用関係になく、業務委託を受ける者」です。代表1名で従業員を使用しない法人もこれに該当します。
一方、発注する企業の側(業務委託事業者)の追加義務は、従業員を使用するか否かで区別されます:
- 従業員を使用する事業者 → 特定業務委託事業者(追加義務あり)
- 従業員を使用しない個人事業主・1人法人 → 業務委託事業者(基本義務のみ)
発注先がどちらに該当するかを確認するフローを整備する必要があります。
2. 60日ルールの起算点
「成果物の受領日」が起算点です。検収完了日ではないので注意。検収に時間がかかる業務では、受領後すぐに支払処理を始める運用が必要です。
3. 既存契約への影響
施行日(2024年11月)時点で継続中の契約も対象です。新規契約だけでなく、既存契約のひな形・支払期日も見直しが必要なケースがあります。
4. 下請法との関係
下請法と一部重複しますが、フリーランス保護新法は下請法の対象外(資本金1000万円以下の事業者からの発注など)もカバーします。両法の適用関係は社労士・弁護士に確認するのが安全です。
ありがちな失敗
1. 書面交付の代わりにチャットで条件を伝えるだけ
LINE・Slack・Discord 等のチャットで条件を伝えるのは「電磁的方法」に該当する余地はありますが、後から条件を確認できる形(PDF 化、契約管理システム保管)にしておかないと立証困難です。
2. 経費精算の支払期日を60日超に設定
報酬本体だけでなく、実費精算の支払いも60日ルールが適用されると解される可能性があります。経理フローでの確認が必要です。
3. ハラスメント防止規程の改訂漏れ
業務委託先からのハラスメント相談で「規程に記載がない」と対応が遅れるケース。新法対応の機会に必ず改訂しましょう。
規程ログでの対応
規程ログには業務委託契約書テンプレートおよび**ハラスメント防止規程(フリーランス対応版)**が組み込まれています。AIが自社の現行契約書・規程を新法と突き合わせ、改定が必要な箇所を自動検出する機能も提供しています。
まとめ
フリーランス保護新法は、業務委託契約書・社内規程の両面で見直しが必要な改正です。書面交付・60日支払・ハラスメント防止の対象拡大の3点を中心に、自社の発注フローと規程を点検しましょう。
※ 本記事は一般的な情報整理を目的としています。具体的な契約書・規程作成・改訂は弁護士・社労士による最終確認を推奨します。
