副業解禁が一般化する一方で、規程整備が追いついていない企業が多くあります。労働時間通算や健康管理の問題は労使紛争・労災の引き金になり得るため、専用規程の整備が望まれます。
副業解禁の流れ
厚生労働省が公表している「モデル就業規則」では、2018年改定で副業禁止規定が削除され、原則容認の方向性が示されました。副業・兼業の促進に関するガイドラインもあわせて公表されています。
ただし「副業を全面的に容認」する必要はなく、
- 全面禁止
- 許可制(事前申請・会社が許可)
- 届出制(事前届出のみ)
- 全面容認
から自社の実態に合わせて選択できます。
副業を制限できるケース
無制限に容認するのではなく、次の場合は会社が制限・禁止できると解されています:
- 労務提供上の支障がある場合
- 企業秘密の漏えいのおそれがある場合
- 会社の名誉・信用を損なう場合
- 競業により企業の利益を害する場合
これらを規程に明記することで、ケースバイケースで判断できる枠組みを作ります。
規程に盛り込むべき必須項目
1. 目的・適用範囲
- 副業を許可する目的(自己実現・スキル向上・所得補完)
- 適用対象(雇用形態・役職・部署)
- 試用期間中の取扱い
2. 副業の定義
- 雇用契約での副業(他社のアルバイト・パート)
- 請負・業務委託での副業(フリーランス活動)
- 自営業(個人事業主登録)
- 投資・資産運用は通常含まない
3. 申請・許可フロー
- 申請時期(着手前)
- 申請書の項目(副業先、業務内容、稼働時間、報酬有無、開始日、終了予定)
- 承認権限(人事部長 / 直属上司)
- 不許可事由
4. 制限事項
- 競業他社での副業の禁止または事前協議
- 当社の機密情報を利用する副業の禁止
- 健康を著しく損なうおそれのある稼働時間の禁止
- 法令違反となる副業の禁止
5. 労働時間通算
副業先が雇用契約の場合、労基法第38条により労働時間が通算されます:
- 通算後の法定労働時間超過は時間外労働
- 割増賃金の支払義務(後から契約した側が原則負担)
- 36協定の上限規制も通算で判断
請負・業務委託は通算対象外ですが、健康管理上の労働時間は把握すべきです。
6. 健康管理
- 副業を含めた総労働時間の把握
- 月60時間以上の超過時の面談実施
- 長時間労働の場合の副業中止勧告
7. 機密保持・競業避止
- 当社の機密情報を副業で利用しないこと
- 副業中に得た情報のうち当社業務に活用できるものの取扱い
- 副業先での当社情報の取扱い
8. 損害賠償
- 副業を理由とする業務不履行・損害発生時の責任
- 副業先で発生した第三者損害との関係
9. 報告義務
- 副業の状況変化(業務内容変更、稼働時間増加)の事後届出
- 年1回の継続申請
10. 違反時の対応
- 無許可副業の発覚時の懲戒
- 健康悪化時の副業中止命令
労働時間通算の実務
通算が必要なケース
- 自社:雇用契約 → 副業先:雇用契約 → 通算必要
- 自社:雇用契約 → 副業先:業務委託 → 通算不要(健康管理目的のみ)
通算ルール
- 自社・副業先それぞれの所定労働時間を通算
- 法定労働時間(週40時間・1日8時間)を超える部分は時間外
- 時間的に後から契約した側が時間外労働として割増賃金を支払う
把握方法
労働者の自己申告が基本。月次の労働時間報告フォームで集計するのが現実的です。
競業避止条項の設計
副業で競業他社の業務を行うことは原則として制限可能ですが、過度な制限は無効になり得ます。判断要素:
- 競業避止の範囲(業種・地域・職務)
- 期間
- 代償措置の有無
「同業他社での副業は一律禁止」のような広範な禁止は、過度の制限として無効と判断されることがあります。
ありがちな失敗
1. 全面禁止のままで運用
モデル就業規則改定後も全面禁止のままでは、応募者層が狭まります。最低限「許可制」への移行が望まれます。
2. 申請フォームがない
口頭・メールでの申請では、副業状況の把握が体系化されません。フォーム化と一覧管理を仕組み化すべきです。
3. 副業時間の把握漏れ
申請時点だけ確認し、その後の稼働状況を把握していないケース。年次見直し・継続申請のサイクルが必要です。
4. 副業者向けの安全配慮義務
副業を許可した労働者の長時間労働で健康障害が発生した場合、自社の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。総労働時間の把握を怠らないこと。
規程ログでの整備
規程ログには副業・兼業規程テンプレート(厚労省モデル準拠)が組み込まれています。申請フォームの設計・運用支援も含めて、副業解禁を計画的に進められます。
まとめ
副業・兼業規程は労働時間通算・健康管理・競業避止の3軸で抜け漏れのない設計が必要です。一律禁止から許可制への移行を考えるなら、規程整備を先行させることでスムーズに運用できます。
※ 本記事は一般的な情報整理を目的としています。具体的な規程作成・改訂は社労士・弁護士による最終確認を推奨します。
